病態流れ図を用いた処方解析 症例1


■症例1 3 stepで病態流れ図を書いてみよう

 

70代男性

内科開業医からの処方

・イミダプリル5㎎ 1錠

・アムロジピン10㎎ 1錠

・テネリグリプチン20㎎ 1錠

・レボチロキシン50㎍ 1.5錠

【分1 朝食後】 40日分

・フェキソフェナジン60㎎ 1錠

・プラバスタチン10㎎ 1錠 夕食後 40日分

【分1 夕食後】 40日分

・ロキソプロフェン60㎎

【分3 毎食後】 21日分

・ヘパリン類似物質クリーム0.3% 25g ←新規処方

【1日1回 体幹】

 

併用薬

泌尿器科 @大学病院

・ビカルタミド80㎎

・ニボルマブ(オプジーボ)点滴静注100㎎

 

定期受診の患者さんで皮膚が乾燥しているためなのか痒いので塗り薬(ヘパリン類似物質クリーム0.3%)を出してもらったとのことです。

 

本当にただの乾燥肌なのでしょうか?

他にどんなことを投薬するときに確認したいですか?

実際に投薬するときにどんなことを患者さんから確認したいか考えながら読み進めてください。

 

病態流れ図のstep 1 は、この患者さんがどんな疾患に罹患しているか、処方箋からわかる分だけでいいので書き出してみましょう。

各step は読み進める前に一度自分の頭で考えてみて書き出すようにしてみてください。

 

 

■症例1 step 1:処方箋から疾患を書き出す

・略語解説

DLP (Dyslipidemia):脂質異常症

T2DM (Type 2 diabetes mellitus):2型糖尿病

HT (Hypertension):高血圧症

 

どうでしょうか?

この後に各疾患を矢印でつなげたりする関係で、全体で丸を描くように配置しています。

 

イミダプリル、アムロジピン⇒高血圧症

テネリグリプチン⇒2型糖尿病

レボチロキシン⇒甲状腺機能低下症

プラバスタチン⇒脂質異常症

ビカルタミド⇒前立腺ガン

ニボルマブ⇒他の何らかのガン(詳細不明)

 

これらの疾患はあるのではないかというところは分かると思います。

ではこれらの疾患の関係性をつなげつつ、他にも隠れている問題があるのではないかと考えてみましょう。

適応疾患が絞り込むのが難しい薬(フェキソフェナジン、ロキソプロフェン、ヘパリン類似物質クリーム)は一端保留しておきましょう。

 

次のstep2では、書き出した疾患やそれに関連する病態をつなげます。

生活習慣病と呼ばれる、高血圧、脂質異常症、糖尿病の原因なんかを考えて書き出してみましょう。

原因が多すぎて絞れない疾患は、この時点では無理して何個も書き出さなくてもいいです。

 

■症例1 step 2:関連する病態を書き出し、疾患とつなげる

・略語解説

DLP (Dyslipidemia):脂質異常症

T2DM (Type 2 diabetes mellitus):2型糖尿病

HT (Hypertension):高血圧症

AS (Arteriosclerosis):動脈硬化

CKD (Chronic Kidney Disease):慢性腎不全

 

step 2 は少し難しく感じることもあるかもしれません。でも大丈夫、慣れればきっとできるようになります。順にみていきましょう。

 

まず、2型糖尿病、高血圧症、脂質異常症があることから石灰化を伴う動脈硬化が起きているという事は想像できると思います。

また、動脈硬化や脂質異常症の原因でもある高脂肪食の過剰摂取は前立腺ガンの原因の1つでもあり、これも背景にあるのではないか? ということも想像できると思います。

これらの動脈硬化が原因で起こる疾患(高血圧や慢性腎不全など)や、動脈硬化の原因となる疾患(糖尿病や脂質異常症など)、食習慣の欧米化に伴う脂質摂取量の増加に伴う脂質異常症、胃食道逆流症や、各種のガンなどへの流れはポリファーマシーになっている患者さんの処方を考えて、病態流れ図を書く上ではかなり大切になります。

これから後に出てくる症例にもかなりの頻度で出てきます。ぜひこの流れはイメージとして持っておいてください。

 

さらに、2型糖尿病、高血圧症、動脈硬化からは、慢性腎不全の可能性もあることが分かると思います。もちろん、心筋梗塞や脳梗塞の既往、軽度の心機能低下などの可能性もあるかもしれないのでそれらを書き出してもいいと思います。確定ではないが、疑われる病態を書き出すときには ”?” をつけておくといいです。

もしも、この患者さんに慢性腎不全があった場合には、ぜひ心機能にも注意してください。腎臓と心臓は互いに作用し合っているので、腎機能が低下していると、心不全などの心機能低下が生じている可能性があります。

 

また、ニボルマブは 悪性黒色腫、切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌、根治切除不能又は転移性の腎細胞癌、再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫など多くのガンに適応を持っているために、投薬時に患者さんから聞かないと詳細は分かりませんが、前立腺がんの転移に伴うガンなのか? それとも別の原発ガンなのか? 今回は前立腺がんからの転移なのかな? という事で、矢印で前立腺がんからつなげてあります。

 

実際には、投薬時にこれらの不明な部分を患者さんやその家族から確認するようにしましょう。

 

step 3では、処方薬を書き込み、作用・副作用を考慮してつなげます。

書き出した疾患に対応する処方薬はその近くに書き出して、つなげましょう。また、それらの処方薬の副作用から起こりうる病態をつなげられると考えたときにはそれらも線でつなげるようにしましょう。

作用・副作用を可視化できると、処方上の問題点にも気が付きやすくなります。その結果、減薬や変更などの処方提案にもつながっていきます。

 

 

■症例1 step 3:処方薬を書き込み、作用・副作用を考慮してつなげる

・略語解説

DLP (Dyslipidemia):脂質異常症

T2DM (Type 2 diabetes mellitus):2型糖尿病

HT (Hypertension):高血圧症

AS (Arteriosclerosis):動脈硬化

CKD (Chronic Kidney Disease):慢性腎不全

SE (side effect):副作用

 

最後のstepで一気にボリュームが増しましたね。ごちゃごちゃしているようにも見えますが、なんか色々とつながってきた感じもすると思います。順にみていきましょう。

 

まず、脂質異常症に対して処方されているプラバスタチンや、2型糖尿病に対して処方されているテネリグリプチンなど、step 1で書き出した疾患に対応する処方薬は書き加えます。

そのあとに、各薬剤の副作用で病態に関連するものは無いかと考えてみます。

そうすると、ニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害剤には有名な副作用で皮膚障害、間質性肺炎、1型糖尿病などがありますが、その中の皮膚障害による搔痒感の可能性もあるのではないか? と考えることが出来ます。

また、慢性腎不全による皮膚の掻痒も起きやすいので、その可能性も考えられます。

なので、今回の皮膚の痒みは乾燥肌によるものかもしれないし、ニボルマブによる副作用や慢性腎不全によるものの可能性もあるという事が分かります。

 

ロキソプロフェンは処方日数が21日分であり、他の処方薬は40日分であることを考慮すると、屯用で服用している可能性が高いと思います。癌性疼痛に対しての処方なのか? 腰痛症などの整形疾患に対する処方なのか? ということも確認しておく必要があると思います。

 

また、ニボルマブの副作用による甲状腺機能低下症の可能性もあり、その関係性も確認する必要があるでしょう。そして、慢性腎不全があるとすれば、ロキソプロフェンを継続して服用することで腎機能のさらなる低下の可能性が考えられます。皮膚の痒みでは、ひどいと夜寝つきが悪くなるために、通常は1日2回朝夕食後で服用する抗ヒスタミンのフェキソフェナジンを夕食後だけ服用するということになっているのかもしれません。

 

投薬時に確認したい事

・ニボルマブは何のガンに対して処方されているのか? また、それは前立腺がんの転移なのか?

・甲状腺機能低下症や皮膚の痒みはニボルマブの副作用によるものなのか?

・慢性腎不全はあるのか? 腎機能はどの程度なのか?

慢性腎不全があるとするならば、腎性貧血や心不全の合併にも気を付ける必要があります。

・フェキソフェナジンは皮膚の痒みに対して処方されているのか?

 

これから起こりうること

・ロキソプロフェンの継続服用による腎機能低下があります。顔面や手足の浮腫み、尿量の減少、倦怠感、貧血症状が出てこないか注意が必要です。

・痒みによる入眠障害などでベンゾジアゼピン系睡眠薬が処方された際には転倒などに要注意です。場合によっては、フェキソフェナジンから眠気の出やすい抗ヒスタミン剤などへの変更することで、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の代替案とする必要も出てくるかと思います。

 

いかがでしたでしょうか?

随分この患者さんが抱えているであろう問題が見えてきた感じがしませんか?

 

実際にはニボルマブが何のガンに対して処方されているのか? 腎機能はどの程度なのか? 患者さんやその家族に確認しないと分からないことも多いのですが、そこを投薬時などに確認することでこの図を完成させればいいのです。

複雑な処方の解析に少し役に立つと感じて頂けたでしょうか?

この後の処方もボリューム満点の処方箋が待っています。

ぜひ病態流れ図を用いて解析してみましょう。

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