病態流れ図を用いた処方解析 はじめに


減薬せよ、薬剤師

~病態流れ図を用いた処方解析~

 

 

・はじめに なぜこの本を書きたいのか?

 

薬学生の実習や新人薬剤師の教育に携わる中でふとした時に気が付いたことがありました。

かれらは処方される薬についての知識はあっても、実際に患者さんに何が起こっていて(病態)、なぜその処方薬になっているのか(処方解析)がわかっていなかったのです。これは特に10種類以上になるような多剤の処方箋で顕著でした。

 

その大きな理由としては、処方箋には医療機関の情報と患者さんの情報と処方薬に関する情報しか載っていないので、患者さんの病態が今どのようになっているのかは想像するしかないのです。

処方箋は多剤処方になるととても難解です。この難解な処方箋を理解し、医師に対して処方提案などができている薬剤師はどれくらいいるのでしょうか?

 

薬学部の授業では処方箋から病態を読み解くような教育はあまり受けておらず、ましてやポリファーマシーになるような多剤の処方箋を理解するというのは簡単な事ではありません。

このように各々の薬が分かっていても、それらがどのようにつながっているのかがわからないという問題を解決するために便利なのが ”病態流れ図” なのです。

 

病態流れ図という言葉は長年薬剤師として活躍されている方でも聞きなれない方が多いと思います。私は医学部の授業の一環でこの考え方を学びました。そして、これを用いることで処方箋に書かれている各々の薬が有機的に結びつき、とても丁寧に理解することが出来ることに気が付きました。一見面倒な作業でも、患者さんの病態が可視化でき、今起こっている問題や今後起こりうる問題も想像しやすくなり、相互作用などの注意にも気が付きやすくなります。

つまり、いま薬剤師に求められている処方提案や対人への業務のシフトには病態流れ図を使いこなせるようになるととても便利であるという事が分かると思います。

 

しかし、そうは言ってもそんなに簡単に病態流れ図を使いこなせるようになるのか心配になりますよね?

実際に実習に来ている薬学生に3 stepでおこなうこの手法を教えて練習してもらうと、10症例くらいこなすだけで、ある程度の病態流れ図を書けるようになりました。そうすると、処方の問題点に気が付くことができて、処方提案をおこなうことができるようになるのです。

 

高齢化により、複数の疾患を抱えている患者さんも多く、複数の医療機関を受診しているために、時には10種類以上にもなる処方薬によるポリファーマシー。これを解きほぐすには病態流れ図を用いるのがとても便利で、全体像を理解できるとどの薬を減らせる(または変更する)かが見えてきます。相互作用なども考えて減薬していくことが出来れば、薬剤師の存在価値が今よりも増してくると考えています。

 

もちろん処方箋から得られる情報には限界があり、本音を言えば一元化したデータベースがあり、それにより患者の情報を閲覧できればベストですよね。でも残念ながら今のところそれが実現するには、もう少し先の話になりそうです。

そんな情報量が少ない処方箋なのですが、そこからどこまで患者さんの姿が想像できるかで投薬時の説明のレベルが変わるし、患者さんの満足度も圧倒的に変わります。そして、何より薬剤師自身の業務に自信が持てるようになり、満足度が上がります。患者さんの病態の流れを理解できた時の薬学生たちの嬉しそうな姿を見ることが私は何よりも嬉しかったです。

 

私は薬剤師になって十数年経ちます。その間にジェネリック医薬品や在宅医療の普及、最近ではリフィル処方箋の開始など、薬剤師の業務はただ言われたとおりに薬を出すだけの対物業務から対人業務へと大きく変わろうとしています。

 

私は対物業務の時代に、医師から何度も「いいからその通りに(処方箋を)出せ。」「おれの処方に文句を言うのか?」「そんなことをしたら売り上げが減るだろ?」などと言われ、薬剤師の職域の狭さを痛感し、薬剤師の存在価値とは何なのかという事を何度も考えました。

そのため、本当に患者さんのためになるような医療を提供するには私自身が処方権を有する医師免許を取得する必要があると痛感し、再受験をして医師になりました。しかし、医学生として医学を学びながら、薬剤師の職域を広げて、今よりももっと活動の場を広げるにはどうしたらいいのだろうか?という事をいつも考えていました。

 

この本に書いた病態流れ図は薬剤師の職域を生かすためのとても強力なツールになると思います。もちろん処方箋から読み取れる情報には限界があり、よくわからない部分もあるのですが、ぜひこの手法を身に付けて、日々の投薬業務に利用していただき、ポリファーマシーの減薬や処方提案などを積極的に行えるようになっていただければこの上なく嬉しいです。

 

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